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works from Tomoko Ueyama works from Tomoko Ueyama works from Tomoko Ueyama works from Tomoko Ueyama
- the three works from Tomoko Ueyama -









○2020年10月:
 ある日、音響作家・ウエヤマトモコさんが静岡で制作された作品があることを知りました。確か2019年の春に浜松に移住されていたはずで、新しい土地で制作されたその作品はいったいどのようなものなのかまずは詳しく知りたいと思いました。
 伺うとそれはL版サイズの一枚の写真、その裏にSDカードが取り付けられていて、フィールドレコーティングされた音が高解像度のデータとして入っているという、すこし珍しいフォーマットの作品集でした。
 ウエヤマトモコさんは今年COVID-19の流行が日本でも本格した頃に静岡の鴨江アートセンターにレジデンス・アーティストとして滞在制作をされています。私はその頃、ウエヤマさんが静岡の風(の音)をどうやったら録れるのか、、といった謎めいた問いを口にされていたのを何となく覚えていましたし、これまでのウエヤマさんの録音に関わる優れた仕事の様子も知っていたということもあり、その成果のひとつとしてまとまった作品集というだけで、自然と心が動かされました。

 作品は現在3種類
・2020年7月12日 三ケ日駅から奥浜名湖駅
・2020年6月23日 佐鳴湖
・2020年7月20日 泉児童公園

 L版の写真の裏には文字としての記録も書いてあるのですが、私は最初にその文は読まずに写真の印象と音だけで鑑賞しました。音源はそれぞれ13分前後の音声のみでフィールド録音された音以外はなく、作為的な音の付け足しもありません。ですが、この録音を聴いているとウエヤマトモコさんが意識を向けて収録したかったものが朧気に伝わってくるような、静かな意識が留まっているように思えてきます。

 この感覚は何だろう、何に私はこれほどまでに惹かれるのだろうと思うのですが、この体験をしばらく心にとどめながら生活しているうちに、ある日ふと思い当たるものがありました。それは、旅をして、初めて訪れる土地に入るときなどに、どこか身体の感度が上がるような周りの環境に敏感になる時がありますが、まさにその感覚自体を思い出していたのではないか、ということでした。ウエヤマトモコさんが新天地で発見しようと努め、実際に興味深い音や時間に出会った、そのドキュメントとして他者である私も追体験していたのではないかと感じています。
 私がここで一枚の風景写真と録音から得たものは、心の中の他はどこにも存在しない映像体験です。ただそれがウエヤマトモコさんの実際の録音時の様子とどれだけ接点があるのか、誤解している部分はないか、そんなふうに思ったときに写真の裏の文章を読むことにしました。この限られた情報の提示であるからこそ、心の距離を測るような予想・想像のやり取りが自然と沸き起こる仕組みにも、この作品の豊かさがあるように思います。

2020年11月27日